アルルアイレ主審の冷静さと情熱。大橋侑祐主審の青さ。VAR運用の是非。(J1第31節)
J1リーグ第31節。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。
審判Topics
「重要な判定はOFRで確認」
という運用があってもよい。
主審への信頼を守るために。
名古屋 vs 川崎F
(主審:
アブドゥルハディ・アルルアイレ
副審1: 赤阪修 VAR: 西村雄一)
交流プログラムで来日中のカタール出身アルルアイレ(Abdulhadi Al-Ruaile)主審が担当。カウンターの場面ではエリア内まで躊躇なく侵入するシーンが見られ、走力の高さと思い切ったポジショニングは日本人審判にはあまり見られないダイナミックさで新鮮だった。
試合としては、36分の永井のゴールが難しい判定に。永井のゴールは「オフサイドかどうか」そして「永井のハンドがあったかどうか」の2点の判断が必要であった。
まず状況整理として、中継映像では一部見切れているが、永井がシュートを打つ前に赤阪副審の旗が上がっている。注目すべきは赤阪副審が左手でフラッグを上げている点だ。オフサイドであれば旗は右手で上げるので、これは「攻撃側のファウル」を意図したフラッグアップであったと思われる。つまり、赤阪副審としては「オフサイドはナシだが、永井のハンドがあった」と判断していることがわかる。
一方で、アルルアイレ主審はフラッグアップを確認して笛を口元に持って行ったが、そのままプレーを続けさせ、そのうえで当初判定としてゴールを認めている。これはすなわち、アルルアイレ主審としては「永井のハンドはない」という判断を下していたことを意味している。
永井のハンドについては、主審・副審ともに見極めが可能な角度にポジショニングしており、距離的には主審のほうが近い。赤阪副審の判断もふまえたうえで、最終決定者としてアルルアイレ主審がノーハンドというジャッジを下したと思われる。
結果的にはVARで確認し、「オフサイドなし、永井のハンドなし」を確認してゴールを認めた。ハンドは際どいところだったが、永井は得点者なので腕に当たっていれば意図にかかわらずハンド…となるパターン。映像で確認したうえで「明らかに腕に当たっている」という証拠を見つけるには至らなかったのだろう。
この場面では、まず赤阪副審の正確なラインジャッジを称えたい。そのうえでアルルアイレ主審の正確な見極めと冷静な状況判断、そしてそれを可能にした走力に敬意を表したい。
なお、この試合では後半に2枚の警告を受けたファンウェルメスケルケン際が退場処分に。1枚目の警告の2分後に2枚目の警告となった
が、いずれも同じようなアフターチャージであり、ボールにプレーする意図が感じられないラフプレー。1枚目の警告から何も学んでおらず、同じ過ちを繰り返した愚かさには退場が妥当だ。
退場のシーンでは、カード提示から他選手の制止まで非常に高い温度感で(半ばエキサイトしながら)ふるまう姿が見られた。個人的にはそこまで悪質なファウルや激しい抗議・詰め寄りには思えなかったので、もう少し穏やかな接し方でもよいように感じたが、これが中東仕込みの危機察知アラートの高さなのかもしれない。
京都 vs G大阪
(主審: 大橋侑祐
VAR: 木村博之)
水曜日の試合でJ1デビューを飾ったばかりの大橋主審が2試合連続でJ1の試合を担当。激戦必至の関西対決という難しい試合を任されたところに、審判委員会の期待値の高さを感じる。
89分、宇佐美のフリーキックがファーサイドまで流れ、最後は中谷が豪快なシュートを叩き込むも、VARが介入。大橋主審がOFRを行い、中谷のシュートの前にウェルトンのハンドがあったことを確認してゴールを取り消した。
ウェルトンは得点者ではないので、意図的であったか・自然な位置で点があったかという点を考慮した主観的な判断となる。複数の選手の間を抜けてきたボールではあるが、リプレイ映像で見ると、ボールの方向に腕が動いている印象が強く、「意図的」であったと捉えるのが妥当だろう。VARの介入も、映像を見たうえでの最終ジャッジも適切だったと考える。
大橋主審としては、ボールが通過する際にウェルトンの腕が動いたのは確認できたはずだが、当たったのか避けたのかは肉眼では見極めが困難なレベルに思える。これを「見逃し」と評するのは酷だろう。
そして90+7分には、京都のハンドを採ってPK判定。黒川のクロスに対し、宮本のブロックで跳ね返ったボールが福田の腕に当たっている。スライディングを試みた福田の腕は高く上がっているものの、今回判断を難しくするのは「クロスが直接当たったわけではない」という点だ。
現行ルールにおいては、クロスをブロックしようとした場面で胴体から離れた腕にクロスが直接当たったらハンドになるのは多くの人が理解しているであろう。この場合は、相手のクロスが来ることが予測できる状況で、それを理解したうえで体を投げ出すという行為はリスクがありますよ…ということだ。
では、今回の場合はどうか。クロスが来ることは承知だろうが、クロスが宮本から跳ね返って戻ってくる…という事象を予測しろ…というのは無茶にも思える。結果的にノーハンドという判定を個人的には支持する。
大橋主審としては高く上がった腕にボールが当たった印象が強く残ってのハンド判定だったのかもしれない。ボールが続けざまに選手に当たったり方向が変わったりした場合に、記憶の中での残像がブレるのは珍しいことではなく、その点でどこかに「明白な間違い」があったのかもしれない。VAR適用ミスという声もあるが、現時点では大橋主審の当初判定の内容が明らかでないので、VAR介入要件である「明白な間違い」や「重大な事象の見逃し」があったかどうかは断定できない。
VAR運用の観点だと、今回は主観的な要素が多分に作用する判定になるので、大橋主審の明らかな事実誤認・見逃しがない場合には介入が難しい事象だと思う。それでも介入に至った仔細は定かではないが、下記の谷本主審の例を比較すると、「映像で見てジャッジ」というプロセス自体が審判への信頼やジャッジの説得力を担保する役割を果たしたように感じる。よって、今回のVAR運用は個人的にポジティブに捉えている。
浦和 vs FC東京
(主審: 谷本涼
VAR: 鶴岡将樹)
14分、コーナーキックにニアで森重が合わせたところで、石原に当たって再びコーナーに。ここでVARが介入し、OFR(オン・フィールド・レビュー)の末に、ハンドでPK判定となった。
リプレイ映像で見ると、森重が頭ですらしたボールが石原が広げた腕に当たっていることは明らかだ。直前でコースが変わって予知は難しい状況だったが、ボールが自分の方向に向かっている状況であれほど腕が広がると、「自然な位置」とは言えない。石原はかわいそうな部分はあるが、ハンド判定は妥当だろう。
一方、35分。ドリブルで運んだグスタフソンの背後からディエゴ・オリヴェイラがチャージしたシーンは、最低でもイエローは必要だろう。故意ではないにせよ、アキレス腱から踵にかけての部位を踏みつける形になっており、一歩間違えばアキレスけん断裂などの可能性がある行為だった。
谷本主審としては、接触部位を認識できていればノーカードはありえない。おそらく、瞬間的に串刺し気味になり、踏み付けではなく、単なる偶発的な「追突」に見えたのだろう。個人的には退場の可能性もあると感じるので、VARとしてOFRをレコメンドしてもよかったのではないかと思う。
厳密に言えば「オレンジ」くらいの行為ではあるので、退場濃厚ではないためVARが介入を躊躇った可能性はある。ただ、あのままノーカードで進めることで、谷本主審に対する特に浦和側の信頼は大きく低下する。試合の秩序を守るためにも、映像で確認してジャッジしたほうがよかったのではないかというのが個人的な考えだ。
鹿島 vs 柏
(主審: 福島孝一郎
VAR: 御厨隆文)
90+3分、知念のドリブル突破に対して白井が後方からスライディング。知念は倒れるもノーファウル判定。リプレイ映像で見ると、ボールに届かないことを悟った白井は足の振りを途中で止めており、接触はほぼない。スライディングを認識した知念がつま先を立てて「ファウルを貰いにいった」形であり、ノーファウル判定は妥当だ。
福島主審はやや串刺し気味のポジションにいたようには思えたが、白井の足が止まったのが見えたか、知念が「自ら倒れた」のが見えたか。いずれにしても素晴らしい見極めであった。
なお、試合終了時にはコーナーキックを要求した鹿島側がエキサイトする場面も。とはいえ、笛が鳴ったのは6分30秒すぎ。アディショナルタイム表示は6分であり、90分経過後に追加対象になるようなプレーの中断はほぼなかったので、6分を過ぎた時点でいつ終わってもおかしくない状況だった。コーナーキックをやれば7分を過ぎることが濃厚であり、試合を終わらせるタイミングとしては適切だったと考える
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