自動画像

マンツーマンの守備で若きアメリカを封殺。智将ファン・ハールの矜持を見た。(カタールW杯)

カタールW杯決勝トーナメント1回戦。オランダとアメリカの一戦を講評する。

オランダ vs アメリカ

<Referee Topics>

「先回り」の位置取りが目立つ。

笛は鳴らしすぎか。

Referee:

Wilton Sampaio (Brazil)

Assistant referees:

Bruno Boschilia (Brazil)

Bruno Pires (Brazil)

Video Assistant:

Nicolás Gallo (Colombia)

サンパイオ主審は、今大会で3試合目の担当。セネガルvsオランダ、ポーランドvsサウジアラビアはファウルが少なく落ち着いた試合展開だったのでソツなくこなしたが、初の決勝トーナメントで真価が問われる一戦となった。

序盤はファウルもほとんどなく落ち着いた立ち上がり。22分にはドリブルで仕掛けたプリシッチをドゥームフリースがブロックして阻止するがノーファウル。このジャッジを試合の基準と捉えると比較的タフな基準であり、23分のガクポが倒れたシーンも当然ノーファウルとなる。

ポジショニングの傾向としては、かなり「先回り」していた印象で、それゆえにトランジション(ボールを奪われる)の局面ではポジショニングがバタついたり、展開に出遅れたりというシーンも見られた。とはいえ、先回りのおかげでゴール前での事象を見落とすリスクが減るメリットもあり、一定の合理性はあった。

後半はアメリカ(特にプリシッチ)が果敢な仕掛けを見せたことで、ファン・ダイクとコープマイネルスが続けざまにファウル。ファン・ダイクの時点でオランダ側には注意を与えていたので、同様のファウルを犯したコープマイネルスには当然イエローカードを提示。ファウルに関するマネジメントとしては王道だ。

後半18分、エリア内に侵入したドゥームフリースにロビンソンが交錯するもノーファウル。結果的にドゥームフリースの足に絡んでしまっていたが、その前にボールに触れたうえでバランスを崩した…というようには見えた。サンパイオ主審は例の如く「先回り」しており、間近の位置で見極めていたので説得力もあった。ノーファウルという判断は十分に受け入れられる。

ということで、個々のファウルの判定やポジショニング、マネジメントには大きな問題はなかった。個人的に気になったのはホイッスルで、大したことではない事象に対しても、ピピピピッと連続して笛を吹くシーンが多かった印象だ。試合が荒れやすい南米では必要なのもかしれないが、少なくとも今日の試合のテンション感では必要のない笛だったようには思われた。

試合の講評

相手の特長を消す達人、健在。

その名はルイス・ファン・ハール。

スタメンはほぼ不変。アメリカはセンターフォワードのみ流動的。

オランダのスタメンはグループステージの主軸とほぼ変わらず。3バックの右はデリフトではなくティンベル、アタッカーのベルフワインではなくクラーセン、デヨングの相棒はベルフハイスではなくデローン。グループステージの3試合を経てファン・ハールはバランスのとれた最適解に辿り着いたように見える。

一方のアメリカもスタメンはほぼ不変だが、センターフォワードにはフェレイラを起用。ここまでサージェントやライトを起用してきたが存在感は希薄だった。アダムスを中心とする中盤、リームが入って安定感を増した最終ラインはある程度計算が立つだけに、前線の決定力という点はこの試合の注目ポイントであった。

左サイドを起点に右サイドで崩して中央で仕留める。オランダの「十八番」の攻撃が炸裂。

序盤はアメリカペース。中盤の要であるアダムスはクラーセンの密着マークに遭ってなかなかボールを触れなかったが、センターバックのリームが起点となり攻撃を構築。ウィングのプリシッチやウェアが幅をとりながら、縦の推進力に優れたデストとロビンソンの攻め上がりも活かして攻撃。グループステージで見せたアグレッシブなスタイルを継続して見せていた。

しかし、オランダがワンチャンスをモノにして先制。左サイドのブリントを起点にして右サイドに展開し、最後は中央でクラーセンとデパイがエリア内に侵入して仕留めた。各選手の最も得意とするプレーが連なり、まさしく「十八番」の形でゴールを奪った。

アメリカとしては立ち上がりに見せたハイプレスの強度を少し落としたところで、瞬間的にギアを上げたオランダにしてやられた形だ。もともとボールサイドに人を寄せて圧縮するコンパクトな守備をしているので逆サイドにはスペースができやすい。プレスがやや緩んだところを突かれて逆サイドへの展開を許したところが痛恨だった。

マンツーマンの守備でパスコースを限定。アメリカは流動性と連動性がいまひとつ足りず。

アメリカとしては、マンツーマン気味の守備を敷くオランダを相手に、前半の中盤以降はビルドアップがやや手詰まりになった感もあった。前述のようにアダムスが「消された」こともあり、最終ラインのリームがボールの出しどころを探すシーンが目立った。相手の長所を消しこんでくる緻密さは、さすがファン・ハールという印象だ。

突破口になりえたのは両サイドバックだ。加速力に優れるデストとロビンソンは対峙する相手をかわして前進する場面がしばしば見られた。マンツーマンの守備は裏を返せば1対1でかわされると一気に数的不利に陥るわけで、アメリカとしては個の力で突破できる両サイドバックやプリシッチにボールを集めたかったが、オランダは巧みにパスコースを消していた。

アメリカとしては組み立ての局面でのもう一工夫が欲しかったところだ。ABEMA解説の戸田和幸氏が言及したようにセンターバックがワイドに構えてズレを作るのも一策だったし、インサイドハーフのマッケニーやムサが低めのポジションでボールを引き出すのも有効だったかもしれない。マンツーマンの守備に対して有効なダイレクトプレーや流動的なポジションチェンジという場面もなかなか見られなかった。

選手を代えて戦術も変えたアメリカ。選手は代えたが戦術は変えないオランダ。両チームともに合理性はある。

ハーフタイムには両チームが選手を代えたが、意味合いは大きく異なる。

アメリカはセンターフォワードタイプのフェレイラに代えてアタッカーのレイナを投入。前線のプレス強度を高めつつ、流動性を高めて攻撃の糸口を探ろうという狙いが見られる。また、アダムスがサイドに流れたり、マッケニーやムサが低めの位置でボールを引き取ろうとしたりなど、前半には見られなかったビルドアップの工夫も見られた。バーホルダー監督としても前半の課題は明白だったはずで、合理的な采配であった。

一方のオランダはクラーセンに代えてベルフワインを入れたが、ベルフワインが前線に入りガクポがクラーセンの役割を担うので大きな変化はない。コープマイネルスとデ・ローンも多少のプレースタイルはあるが担う役割はおおむね変わらない。

ベルフワインに関してはグループステージでは先発の試合もあったが、より直線的にゴールに迫ることができるアタッカーであり、カウンターの機会が増える後半のほうが持ち味を活かしやすい。また、中央は運動量が落ちると一気に守備強度が下がるので、早めに選手を入れ替えるのは非常に理に適っている。このあたりの合理的な采配もファン・ハールの真骨頂だ。

中央の守備強度があるオランダ。低めに設定された5バックは強固。

後半は選手も入れ替えつつアメリカが攻撃の比重を高めたのに対し、オランダも無理して前には出ずに、中央でどっしりと「受けて立つ」というスタンスで待ち構えた。結果的には一方的にアメリカが攻め込む展開となったが、なかなか中央をこじ開けるには至らなかった。

ティンベル、ファン・ダイク、アケーから成る3バックは高さと強さがある一方で、必ずしもスピードには優れていない。最終ラインは低い位置に設定するほうが好ましく、その意味では自陣に押し込まれる展開はむしろ好都合だったかもしれない。

アメリカは失点タイミングが痛恨。4年後の自国開催に向けて期待感はある。

アメリカとしては、前半終了間際と得点直後という最悪のタイミングでの失点が痛恨だった。「さぁ、いくぞ」というタイミングでの失点により、オランダは自陣に引きこもってしまい、アメリカの攻撃陣には焦りが生まれた。

中央の守備強度があるオランダが5バックで守りを固めると攻略は容易ではない。オランダが攻める必要のない展開になった時点で、アメリカの勝率はかなり下がった。前半に0-1の時点で攻撃の糸口を見つけたかった。

とはいえ、イングランド相手に互角の戦いを見せるなどグループステージでの戦いは堂々たるもので、欧州の最先端のメカニズムを攻守ともに取り入れたサッカーは、「青さ」こそあれど期待感はあった。若手主体のチームなので、自国開催となる4年後のワールドカップが非常に楽しみだ。



本記事は参考情報として提供しており、内容の正確性・最新性について保証するものではありません。

Jリーグマニアを始めよう!
未登録でも記事投稿できます

アカウントがなくても、思いついた内容を すぐに記事として投稿できます。

いま話題になっている記事や、参考になりやすい内容をまとめてチェックしてみる