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マテウラオス審判評:彼自身のスタンスを貫いただけ。異議に厳しくカードを厭わず。(カタールW杯)

カタールW杯準々決勝。オランダ vs アルゼンチンの一戦を裁いたマテウラオス主審率いる審判団のジャッジを振り返る。

オランダ vs アルゼンチン

試合を通じて判定基準はブレていない。

彼のスタンスと試合との相性が悪かった。

Referee:

Antonio Mateu Lahoz (Spain)

Assistant referees:

Pau Cebrián Devís (Spain)

Roberto Díaz Pérez del Palomar (Spain)

Video Assistant:

Juan Martínez Munuera (Spain)

試合が荒れたのは、マテウラオス主審だけの責任ではない。

グループステージでの担当試合は「無難」に終えたマテウラオス主審。順当に決勝トーナメントでも割当をゲットしたこの試合では、その反動なのか「らしさ」が全開となった。世界中のサッカーファンから大バッシングを受けているマテウラオス主審だが、試合が荒れ模様になったのは彼だけの責任ではない。順を追って彼のレフェリングを振り返っていく。

▼マテウラオス主審、無意味にペナルティエリア内に侵入(イラン vs アメリカ)

序盤のマネジメントはむしろ丁寧かつ慎重だった。

試合開始から選手と積極的にコミュニケーションをとりつつ試合を進めていく。前半5分にはデパイに対して背後からチャージしたオタメンディを呼びつけて注意。出足の鋭いアルゼンチン守備陣とキープ力に優れたオランダ攻撃陣の攻防はこの試合の肝になる部分なので、立ち上がりはかなり慎重にマネジメントをしていた印象だ。

前半13分にもベルフワインに対して後方からタックルを仕掛けたロメロを呼んで注意を与えた。ボールには触っていたものの後方から足ごと刈り取るような形になっており、かなりのハードタックルだ。繰り返しになるがここのマネジメントはこの試合のテーマなので、選手とも対話をしつつ、丁寧に基準を作っていく。

異議にはとことん厳しい。いつもの「マテウラオス・スタイル」は揺るがず。

前半19分にはベンチを飛び出して判定に対するアピールを行ったディ・マリアをわざわざ呼びつけて注意。このあたりも「火種」になりうるので、早めの火消しを徹底。一貫して「丁寧なマネジメント」を心がけていたように感じた。前半31分には、ベンチを飛び出して判定に異議を唱えたサムエルコーチにイエローカードを提示。同様の行為をしたディ・マリアに既に注意を与えた状況であり、「チームとして2回目だよ」というジェスチャーにも見えた。もちろん妥当性はあるが、異議にはとことん厳しいのが「マテウラオス・スタイル」で、大舞台でも彼らしさは揺るがない。

前半43分には、ドゥームフリースに後方からチャージしたアクーニャに警告を提示。悪意はなかったとは思うが、ドゥームフリースの左のアキレス腱のあたりを踏みつけるような形になっており、イエローカードは当然でレッドカードになる可能性もあった(19-20シーズンのラ・リーガの「アキレス腱ルール」であれば問答無用で退場だっただろう)。そして、アウトオブプレーで小競り合いを起こしたティンベルにも警告を提示。ベンチの前だったこともありアルゼンチン陣営は抗議していたが、むしろイエローカードで済んでよかったと言えよう。

報復気味のファウルを犯した選手をスルーしてベンチ選手に警告を提示。異議は断じて許さない。

前半45分にはベルフワインが浮かせたボールを手で叩き落としたロメロに警告を提示。こちらは議論するまでもない。直後のフリーキックでは飛び込んだアケーが倒れたことに対してアルゼンチンの選手が詰め寄ったため、笛を繰り返し吹きながら慌てて介入。選手が笛を「聞き慣れて」しまうことで笛の効果は弱まるので、個人的には何度も吹くよりも強く2回ほど吹けばよかったようには思う。

つづいて前半47分にはドゥームフリースのタックルを受けたもののファウルを採ってもらえなかったアルヴァレスがデヨングを倒してファウル。ドゥームフリースのタックルはやや後方からではあったがボールをしっかり刈り取っており、ノーファウルでよいと考える(前半13分のロメロのタックルとは強度が異なる)。一方で、明らかに報復気味でファウルを犯したアルヴァレスは少なくとも注意すべきだった。注意を与える際にドゥームフリースのタックルについての認識のすり合わせもできたはずで、ここでアルヴァレスをスルーしたのはもったいなかった。

そして、アルヴァレスをスルーしたマテウラオス主審が向かった先はオランダベンチで、ベンチを飛び出して抗議をしたヴェフホルストに警告を提示した。「ベンチを飛び出しての抗議は認めない」という点においては、やや厳しめではあるものの、前半31分のサムエルコーチと同様の対応であり、基準としては一貫していてブレはない。

ファウルを誘うプレーにはとことん厳しい。これも「いつもどおり」だ。

後半5分にはアクーニャとドゥームフリースが掴み合いながらマッチアップするもノーファウル。厳密にはドゥームフリースが腕を絡めたようには見えたが、「お互い様」感もあり、ノーファウルという判定も十分に受け入れられる。ちなみに、この場面のアクーニャのような「セルフジャッジでプレーをやめる」という行為に対して、マテウラオス主審は非常に厳しく、いわゆる「ファウルを誘う」ようなプレーはことごとく無視される。ここも「いつもどおり」で、ブレていない。

後半26分には、アクーニャを倒したドゥームフリースのファウルを採ってPK。切り返しに対して後手を踏んだドゥームフリースの足が明らかにかかっており、PKを採られるのはやむを得ない。中央寄りの位置をとっていたマテウラオス主審としては、接触の位置(ペナルティエリアの中か外か)は際どかったが、接触したこと自体は明瞭に見えたはずで自信をもって判定を下した。

ABEMA実況席では「VARチェックがされていない」ことが話題になっていたが、正しくは「VARはチェックしたが一瞬で終わった」だろう。VARとしては、接触があったことは明らかなので、接触がペナルティエリア中であることさえ確認できれば主審の判定を即座にフォローできる。

笛を繰り返し吹く悪癖は大舞台でも変わらず。笛の効果は吹くたびに減少していった。

その後、後半30分にはエリア内で競り合ったエミリアーノ・マルティネスとがルーク・デヨングに詰め寄り一触即発の状況に。ここで割って入ったまではよかったが、状況を収めるためにホイッスルを連呼すること1分間で20回。壊れた目覚まし時計のようなありさまで、これにより選手はホイッスルに対して反応しなくなり、ホイッスルの持つ意味はほとんど失われた。

結果的には当事者のエミリアーノ・マルティネスとルーク・デヨングではなく、その隣で相手を突き飛ばしたデパイとリサンドロ・マルティネスにイエローカードを提示。エミリアーノ・マルティネスとルーク・デヨングもしっかりと呼んで冷静になるように諭したほうがよいと思ったが、それをした様子は見られず。笛の連呼も含めてあまり褒められた対応ではなかった。

パレデスの愚行は受け入れがたい。レッドカードが妥当だった。

試合終了間際には、スライディングでファウルを採られたパレデスが笛が鳴った後にオランダベンチめがけてボールを蹴りこみ、選手が入り乱れての乱闘に。当事者のパレデスをファン・ダイクが突き飛ばし、ベンチから飛び出したオランダの選手たちがパレデスを取り囲む形となった。

結果的にはパレデスには警告が提示されて場を収めた。事象だけを見るとスライディングタックルとベンチへのボール蹴りこみでイエロー2枚で退場になってもおかしくなかったし、ファン・ダイクにも警告が出てもおかしくなかったが、結果的にはパレデスのみにカードが提示される…というのは、両チームのバランスという点では良い塩梅だったようには思う。とはいえパレデスの愚行は誰かに当たらなかったからよかったとはいえ、受け入れられるものではなく、個人的には一発レッドに値したと考える。

延長戦では追いつかれたアルゼンチンの勢いが落ちたことで試合は落ち着きを取り戻した。審判topicsとしては延長後半7分にはペッセーラに警告を提示したくらい。ボールにはチャレンジしているものの、ガクポの足を挟み込む形になっておりファウルかつイエローカードという判定は妥当だ。

カードを厭わず異議を認めず。マテウラオス主審のスタンスは一貫していた。

ABEMA解説の中田浩二氏は「主審がパニックになっている」と評していたが、マテウラオス主審は別にパニックになっているわけではなく、そういうスタンスなのである。カードを提示することに躊躇はなく、異議は一切認めないというのが彼のレフェリーとしての信条なのだ。彼の中には後悔など微塵もないだろう。

結果的に試合が荒れるのを止めることはできなかったが、一つひとつの判定はほとんど間違っていないし、基準がブレていたわけではない。彼のスタンスや信条と試合状況や選手心理との相性が悪かったにすぎない。試合が荒れたのはアルゼンチン側が冷静さを失ったのが主因だが、それは審判団の判定に起因したわけではなく「勝手に」ヒートアップしただけで、彼でなくともコントロールは非常に困難な試合であった。

もちろん、彼の審判としてのスタンス・志向性と試合内容(特にアルゼンチン)との相性がすこぶる悪かったのは事実で、他の審判員であればより秩序が保てたかもしれない。そうなると、最大の戦犯は彼を割り当てた審判委員会であるとも言える。



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