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中央とサイドの使い分け。ドイツとナーゲルスマンの最高の船出。(EURO2024)

いよいよEURO2024が開幕。開幕戦となったドイツvsスコットランドの一戦を講評する。

ドイツ vs スコットランド

<Referee Topics>

レッドカードは妥当。

主審の見極め失敗は

ポジショニングが原因か。

Referee:

Clément Turpin

Assistant referees:

Nicolas Danos

Benjamin Pagès

Video Assistant:

Jérôme Brisard

Willy Delajod

Massimiliano Irrati

2022のUEFAチャンピオンズリーグ決勝を裁いたトゥルパン主審。EUROは2016、2020に続く3大会連続の派遣となる。現在42歳でレフェリーとしては走力と経験値のバランスがとれた最盛期。ヨーロッパのトップレフェリーの一人としての評価を得て、大会のスタンダードを作る開幕戦の大役を任された。

最大の焦点となるのは、前半終了間際のレッドカード&PK判定だ。当初はノーファウル判定だったが、VARレコメンドによるOFR(オン・フィールド・レビュー)により、一転してPK+レッドカードという判定になり、ただでさえ劣勢だったスコットランドは数的不利という致命傷を負うことになった。

リプレイ映像で見れば、ポーティアスの足裏がギュンドアンの足首あたりにかなり強く&深く入っていることは明白だ(OFRが僅か数秒で終わったことが明白なレッドカードであることを示している)。右足でボールに触ってはいるものの、左足裏が激しく接触しており、相手選手の安全への配慮が欠けている。骨折のリスクもある危険なプレーであり、レッドカードという判定は多くの審判員が納得するところだろう。

問題になるのは、その接触が当初は「ノーファウル」と判定された点だ。ファウルが起こったのはゴールエリア中央付近で、そのときのトゥルパン主審の位置はペナルティーアークの角くらい。そこまで見えにくい角度には思えない。ポーティアスがボールに触ったという印象が強く残ったのかもしれないが、あの足裏の接触は選手の安全を守るためにも見逃してはならない。

ポジショニングが間違いだったとは思わないが、もう1歩2歩、メインスタンド寄り(中継画面上で手前側)に微修正できていれば、接触の詳細が見やすかったかもしれない。状況としてもゴール前でのこぼれ球であり、際どい接触が起こるであろうことは想像できたはずだ。VARに救われたとはいえ、トップレフェリーとしては「ミス」の範疇に入るジャッジだろう。

試合にとって重要となる最初のファウル判定は3分。ミッテルシュタットに対してマッギンの肘が入る形であった。そこまで悪質ではなかったが、長めの笛を吹き、選手と目を合わせて自制を促した。このあたりの落ち着いた対応は「トゥルパンらしい」振る舞いだ。

前半6分にはハイボールの競り合いの中で、ラルストンとハヴァーツが接触するがノーファウル。ラルストンがヘディングでボールに触っており、その落下点にいたハヴァーツに衝突した形で、ハヴァーツの頭に接触したようにも見えたので一瞬ヒヤッとしたプレーだった。とはいえ、ラルストンの競り合い方は正当であり、プレーが流れる中でハヴァーツが立ち上がって復帰しているのもふまえると、そこまで強い接触ではなかったか。

前半14分、クリスティーがパスを出したあとに接触したアンドリッヒのファウル。パスは繋がっていたのでアドバンテージでもよい場面だが、ボールとあまり関係ないところでの接触であり、小競り合いなどにも繋がる火種になりそうなプレー。いったんファウルを採って両選手を諫める判断は妥当だ。

前半25分には、ムシアラがドリブルで仕掛けたところをクリスティーが倒して一度はPK判定。VARチェックによりエリアの外であることが確認されてFKに判定変更となった。ムシアラが勢いよく前進しており接触場所の見極めは難しいが、トゥルパン主審がよりエリアに近い&メインスタンド寄り(中継画面上で手前側)にポジションを微修正できていれば、位置関係がより見やすかったかもしれない。

前半31分、マクトミネイにスライディングを見舞ったアンドリッヒに警告。ボールに対して遅れて突っ込む形になっており、イエローカードは最低限の対応だろう。足裏がそのまま当たっていればレッドカードもありえた場面だが、足裏はヒットしていないのでイエローカードで妥当だろう。

後半はスコットランドが数的不利になったこともあり粛々と進めた印象だ。48分のラルストンへの警告はSPA(チャンス阻止)で本人すら納得。62分のターへの警告は、クリスティーへのタックルで止まりきれず…で、こちらも本人が受け入れており問題なし。

76分はフュルクルクのゴールがVARのOR(オンリー・レビュー)により取り消しに。際どいラインジャッジであり、ダノス副審を責めるのは酷だろう。

試合の講評

強いドイツが戻ってきた。

圧倒的な質的優位性。

開催国ドイツ、最高の船出。

復権を期す開催国ドイツが、開幕戦を大勝で飾った。前半終了間際のレッドカードで数的優位に立ったことは大きかったが、それ以前に前半から圧倒的に試合を支配しており、内容・スコアともに「完勝」と評してよい試合であった。

ドイツがボールを保持しスコットランドが守勢に回る…という構図自体は戦前の予想通り。その中でドイツは細かいビルドアップにはこだわらず、センターバックからラフなロングフィードを送るシーンが目立つなど、個の選手の質的優位を活かしてシンプルに前にボールを運ぶ意図が見えた。

中央とサイドを使い分けたドイツの巧みな攻撃。

先制ゴールは、トニ・クロースの十八番と言える対角のパスを起点にして、キミッヒのクロスをマイナスで待ったヴィルツが流し込んだ形であった。それ自体はシンプルなサイド攻撃であったが、その前のプレーで細かいパス交換による中央突破を試みたのが伏線になっている。

中央突破を警戒して中を締めたところで、サイドの空いたスペースを突く。シンプルではあるが、テクニックの高い選手が2列目に揃っているからこそ中央突破に怖さがあったこと、中央かサイドかという判断をボランチやサイドバックの選手がしっかり判断できていることなど、ドイツの選手の質の高さが際立った攻撃だったと言えるだろう。

一方、前半19分の2点目では、今度は大外のキミッヒを囮に使いながら、中央の狭いスペースでギュンドアンが縦パスを受けて鮮やかにターン。そこで前線の3枚がゴール方向に一気にスプリントをかけ、最後はムシアラの弾丸シュート。サイドアタックを見せたうえで今度は中央突破…という狙い通りの形であり、選手もナーゲルスマン監督も「してやったり」という2ゴールだろう。

妥当な戦術選択をしたが、質的優位をつくれず敗れたスコットランド。

スコットランドとしては、できるだけ無失点で耐えつつ、キープ力に優れたアダムズが時間を作り、走力に優れた中盤が一気に押し上げてカウンターで1点…というのがゲームプランだったはずだ。リスクを背負いながら最終ラインを押し上げ、ドイツの中盤にスペースを与えない…という戦術も妥当であり、策士クラーク監督の戦術選択は間違いではない。

ただ、そこを選手個々の質で上回ったのがドイツであった。GKガンの手を弾いたヴィルツのシュート力、2点目の起点になったギュンドアンのボールコントロールとパスの質…など、ゴールシーンで光ったのはドイツの選手のプレーの凄さであった。

前半途中からはマッギンの位置を少し下げて3-4-3から3-5-2に並びを変更。中盤を厚くしつつ、アダムズの近くにクリスティーを置くことで、中盤でのボール奪取からのカウンター…という形を出しやすくする狙いが見られた。この変更も戦術的には妥当であり、実際、変更直後はドイツがビルドアップに手こずる場面も見られた。

しかし、アダムズがリュディガーとターの両センターバックに対して地上(スピード)と空中(高さ)の両面で優位性を出せず、全体を押し上げる時間がつくれず。ドイツの前線もボールロスト後のカウンタープレスを怠らずに敢行しており、カウンターに繋がるパスも精度を欠く場面が目立った。

後半はアダムズを削ってハンリーを投入。3-4-2のような形で陣形を整えた。まったく機能しなかったアダムズを諦め、クリスティーとマッギンを筆頭とする「働き者」に懸けた判断も妥当だったが、数的不利のチームにできることは少なかった。

サボらないドイツを象徴するアンドリッヒ。

月並みな言い方だが、「プレーの質をもった選手がサボらずに頑張っていた」のがこの日のドイツであった。日本代表に連敗を喫したころの「弛んだ」ドイツ代表はもはや過去のものになったようだ。

献身性を象徴するのが中盤のアンドリッヒだ。常に足を止めず、中盤での球際での攻防で奮闘。前半31分にイエローカードをもらったスライディングははっきり言って不必要だったが、2対0でリードした状況であのような激しい守備ができる点は緩みのなさの現われではある。(おそらくそのイエローが原因になって前半でお役御免だったわけだが)

また、クラブ時代は細かい戦術に拘り過ぎる部分もあったナーゲルスマン監督だが、代表監督としては選手の特長を活かしたシンプルな攻撃戦術を用いつつ、モチベーターとしての手腕を発揮しているようだ。ムシアラやヴィルツなど、ナーゲルスマンの戦術に適した「走れてテクニックがある2列目」がいたのも追い風になったか。

強いドイツが戻ってきた。



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