中継解説に求められる競技規則の正しい理解。安永聡太郎氏のWOWOW解説を考える(CL第3節②)
チャンピオンズリーグのMatchday3。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。
Referee topics
得点者は、「物理的に腕に当たったらすべからくハンド」になる。
マンチェスター・シティ vs ACスパルタ・プラハ
(Referee: Maurizio Mariani VAR: Aleandro Di Paolo)
48分、中央の混戦から最後はアケーが押し込んでゴール。マウリツィオ・マリアーニ主審は当初ゴールを認めたものの、VARが介入し、得点者のアケーの腕にボールが当たっていたとして、OR(オンリー・レビュー)でゴールを取り消した。
GKのイエンセンの体を張ったセーブで跳ね返ったボールは、アケーの右腕に当たり、こぼれたボールを押し込んでゴールへ。アケーは得点者なので、意図的であか否かにかかわらずハンドを採られる場面だ。「腕に当たったか否か」というファクトのみに基づく判定になるので、主審によるOFR(オン・フィールド・レビュー)なしでの判定変更となった。
なお、WOWOW解説の安永聡太郎氏はゴール取り消しとなったあと、アケーの腕の位置・動きに言及していたが、今回の場合は「物理的に腕に当たったらすべからくハンド」となるので、腕の位置の妥当性や意図的か否かはジャッジに影響しない。中継の解説は戦術のみならず競技規則においても「有識者」とみなされるため、視聴者への影響力は大きい。
87分、マテウス・ヌニェスがエリア内でドリブルで仕掛け、中央に折り返し。ここでパスを出したあとにプレシアドのスライディングが遅れて入り、ファウル判定でPKとなった。プレシアドもファウル&イエローカードをすんなり受け入れており、ドリブルで追いすがる中で無謀なタックルとなったのは間違いない。
中央へのパスが繋がっていればアドバンテージもありえたが、ディフェンダーにカットされたのを確認したうえで、落ち着いて笛を吹きPKを与えた。PA内でのファウルだが、ラフプレーなので懲戒罰は一段階下がることなく、イエローカード。事象発生からカード提示まで、マリアーニ主審の冷静な判断が光った。
ザルツブルク vs ディナモ・ザグレブ
(Referee: Danny Makkelie VAR: Rob Dieperink)
66分、ザグレブ⑰がロングボールに抜け出したところで、飛び出してきたGKシュラーガーと「衝突」。こぼれ球をザグレブ㉕が拾ってシュートを放ったものの、枠から外れたところでダニー・マッケリー主審の笛が鳴り、シュラーガーにレッドカードを提示した。
まずシュラーガーとザグレブ⑰との接触については、結果的に激しい接触になったものの、シュラーガーが先にボールに触れており、シュラーガー側のファウルではない。また、ザグレブ⑰としても、ザルブツブルク91にやや押される形での衝突であり、結果として遅れる形で突っ込んだもののノーファウルと捉えるのが妥当だと感じる。
レッドカードの要因となったのはこの衝突ではなく、その後のシュートを手で弾いたことによるDOGSO(決定機阻止)という判断だろう。ペナルティエリアの明らかに外であり、シュラーガーとしても衝突の衝撃が残る中での反射的なプレーだったと思われるが、DOGSOで一発退場に値することはだれの目にも明らかだ。
マッケリー主審としては、衝突が起こったあとも冷静に状況を見極め、シュートが手に当たったこと、結果としてシュートが外れたことをふまえて、冷静にジャッジを下した。ロングボールに対してスプリントして距離を強め、近距離かつ串刺しにならない角度を確保して事象を見極めたのもジャッジの説得力を高めたといえよう。
なお、仮にザグレブ㉕のシュートが決まっていた場合には、アドバンテージを適用し、ゴールを認めたうえで、シュレーガーへの懲戒罰は一段階下がってイエローカードとなる。ゴールが決まるか否かで懲戒罰が異なるので、最後まで笛を吹かずにウェイトしたマッケリー主審の判断は正しかった。
アトレティコ・マドリード vs LOSCリール
(Referee: Marco Guida VAR: Luca Pairetto)
71分、リールのフリーキックの流れからゴール前で混戦となり、リールのバンジャマン・アンドレが倒れたところでホイッスル。マルコ・グイーダ主審はコケのファウルを採ってリールにPKを与えた。
リプレイ映像で見ると、アンドレがボールに向けて出した足にコケが接触していることがわかる。ただ、かなり無理な体勢で足を出したこともあり、アンドレは接触の前からいわば「死に体」であった。接触自体もかなり軽微であることをふまえると、ファウルに値する接触には思えず、個人的にはノーファウル判定が妥当だと考える。
ただ、接触があったこと、コケがボールに触れる前に相手に接触していることは事実である。接触の程度・強度は主観的な判断になるので、ファウル判定は「明白な間違い」とはいえず、VARが介入するのは難しい。
SKシュトゥルム・グラーツ vs スポルティングCP
(Referee: Giorgi Kruashvili VAR: Aleandro Di Paolo)
66分、ジェニー・カタモがドリブルでエリア内に侵入し、シュートを打とうとしたところでガジベゴビッチと接触。ジョルジ・クルアシビリ主審はファウル判定でPKを与えたが、VARが介入。OFRの末にノーファウルでPK取消となった。
リプレイ映像で見ると、カタモがシュートモーションに入ったところで、後ろから追いすがったガジベゴビッチがボールを突き、出したその足にカタモが振った足が接触…という形であった。ガジベゴビッチが先にボールに触れている以上は、出した足には正当性があり、ノーファウルとするのが妥当だろう。
ガジベゴビッチがボールに触れたのが僅かだったので、主審としてはシュートモーションを妨害した印象が強く残り、PK判定に至ったと推察される。際どい見極めであり、これを「誤審」として非難するのは酷だろう。VARの力を借りて納得感のある判定に辿り着いた。
ジローナ vs スロヴァン・ブラチスラヴァ
(Referee: Horațiu Feșnic VAR: Cătălin Popa)
86分、ゴール前のクロスがスロヴァンのアルトゥール・ガイドシュの左腕に当たると、ホラティウ・フェスニック主審はPK判定を下した。
眼前で他の選手がジャンプしたことでボールが見えにくい状況ではあったが、ボールから完全に目を背けてしまい、胴体から離れた位置にあった腕にボールが直撃した形だ。意図的ではないと感じるが、腕の位置の妥当性がなく、ハンドを採られても致し方ないだろう。
ヤングボーイズ vs インテル
(Referee: Michael Oliver VAR: Stuart Attwell)
後半開始早々の47分、エリア内でジャウエン・ハジャムにドゥムフリースが倒されると、マイケル・オリヴァー主審は躊躇なくPK判定を下した。ハジャムは前に入られたドゥムフリースの首あたりを掴んで侵入を阻止しており、明らかなホールディングだ。ファウルでPKというジャッジは疑いの余地がない。
ホールディングなのでボールに対するプレーとは認められず、抜け出していればチャンスに繋がった状況なので、個人的にはイエローカードの提示が必要だったと感じる。首に手をかけるという悪質さをふまえると、ラフプレーでの警告提示もありえたのではないか。ハジャムは前半に1枚イエローをもらっているので、ここでイエローを出すことで数的不利に…という点をどうしても考慮したのかもしれないが、チャンスを力づくで阻止する行為は認めるべきでなく、ハジャムは退場処分になるべきだったと考える。
ベンフィカ vs フェイエノールト
(Referee: Halil Umut Meler Assistant Referee2: Ibrahim Caglar Uyarcan VAR: David Coote)
24分、フェイエノールトのクロスから最後はこぼれ球を上田絢世が押し込んでゴールネットを揺らすも、VARが介入。ハリル・ウムト・メラー主審がOFRを行い、ゴールから遡ること30秒あまり、攻撃の起点となったコーナーキックの場面で、フェイエノールト側のホールディングがあったことを確認し、ゴール取り消しとなった。
ホールディングのシーン自体は、ロトンバがオタメンディを思いっきり抱え込んでおり、映像を見ればファウルに値するのは明らかだ。APPの範囲内か…は微妙だが、コーナーキックのこぼれ球を繋ぎ、ボールを保持したままゴールシーンまで辿り着いており、一連の攻撃と捉えるのは不自然ではないだろう。
57分のゴール取り消しはA2のウヤルカン副審にとって難度の高い見極めとなった。ゴール前に勢いを持って走り込んできた2選手に対し、最初のラインジャッジでは際どいところをオンサイドと見極めたものの、その後のシュート&こぼれ球に関しては、位置自体が際どいうえにシュートの跳ね返りという難しい状況。「VARがあってよかった」というのが本音だろう。
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