右サイドの攻撃は停滞も、個の力で試合を決めたイングランド。MVPはバートン主審。(カタールW杯)
カタールW杯決勝トーナメント1回戦。イングランド vs セネガルの一戦を講評する。
イングランド vs セネガル
<Referee Topics>
堂々たる振る舞い。
中米が生んだ脅威の31歳。
Referee:
Iván Barton (El Salvador)
Assistant referees:
David Morán (El Salvador)
Kathryn Nesbitt (United States)
Video Assistant:
Drew Fischer (Canada)
今大会がW杯デビューとなるバートン主審はエルサルバドル出身の31歳で、グループステージでは日本vsドイツ、ブラジルvsスイスを担当した。2試合とも注目のカードであり、そこでソツないパフォーマンスを見せたことで決勝トーナメントでの割当を勝ち取った。
前半14分、ケインに対して遅れてアプローチしたディアロに対しては、アドバンテージを適用しつつ、次のアウトオブプレーのタイミングで口頭で注意を与えた。試合の流れを維持しつつ、ファウル続発のリスクは摘んでおく。素晴らしい判断&振る舞いだ。
前半20分にはA1のモラン副審がゴールキックと判定したものをコーナーキックに修正。副審からはやや見えにくいディフレクションだったかもしれないが、審判団として正しい判定を導き出した。判定に対して疑念を抱えたイングランド側の選手と会話し、ガス抜きも忘れない。
前半23分のシーンは、エリア内でストーンズの腕にボールが当たったもののノーファウル。VARも少し時間をかけてチェックしたものの、介入はなかった。シュートブロックに入ったストーンズの腕は胴体からやや離れていたものの、ストーンズの足に当たったのちに腕にかすっており、ノーハンドという判定で問題ない。
前半36分にサールの前進を止めたウォーカーのプレーはSPA(チャンス阻止)で警告が提示されてもよいようには感じたが、カードは出さずに注意に留めた。個人的には言えろカード妥当に思えたが、ゴールまで距離がありストーンズのカバーもあったので、ノーカードも受け入れられる範疇か。
後半はイングランドが追加点を奪ってスコアが開いたこともあり、落ち着いた試合展開に。傷んだ選手に素早く駆け寄って寄り添う姿が印象に残った。細かいファウルを粛々と採りつつ、後半31分にはこの試合唯一の警告をクリバリに提示。フラストレーションを溜めこみケインにアフターチャージしており、妥当なカード提示だ。
決勝トーナメントでは異なる大陸同士の対戦には当該の審判員は極力避ける割当になっている(欧州vs南米の場合、欧州と南米いずれの審判員も避けられることが多い)。アメリカの敗退により北中米のチームはすべて姿を消したので、エルサルバドル出身のバートン主審にとって制約はなくなった。この試合でもパフォーマンスは問題なく、ベスト8以上での割当も狙えるか。
試合の講評
戦術はさておき個の力で試合を決めた。
チームを支えるデクラン・ライス。
ウォーカーの起用によりイングランドは攻撃時に3バックに可変。
イングランドはヘンダーソンが先発でベリンガムはトップ下に配置され、様々な選択肢があった右サイドバックはウォーカー、スターリングが欠場となった左ウィングはフォーデンを起用。ターンオーバー気味にも思えたウェールズ戦のメンバーを軸にスタメンを組んできた。
序盤はイングランドがボールを保持し、セネガルがカウンターを狙う展開に。イングランドはルーク・ショーが高い位置をとりウォーカーが3バック気味に残ることで攻撃時は3-4-2-1に近い形に可変。攻撃の起点になれるトリッピアーではなく、より守備に特長があるウォーカーを起用したことで、攻撃は左サイドが軸になった。
とはいえ、セネガルは個々の選手の出足がよく容易には前進を許さず。自陣に引きこもるわけではなく、アジリティーに優れた3トップがイングランドの最終ラインにも積極的にプレスをかける場面も。前半32分には敵陣でのボール奪取からこの試合最初の決定機をつくるなど、メリハリのある守備で試合を引き締めた。
イングランドは右サイドの組み立てのメカニズムが機能せず。可変システムではサカの位置取りに課題が。
イングランドとしては前半の中盤にかけてはビルドアップでのミスが重なりリズムを失ったようにも思えた。気になったのは右サイドのサカの位置取り。高めのポジションをキープしたが、その位置取りは4-3-3のウィングのそれであり、3バックのウィングバックとしてはやや高すぎる印象もあった。それゆえ、攻撃時は3バックの右を務めるウォーカーからサカへのパスコースがなく、右サイドでの組み立ては手詰まりに陥った。
サカが出場したグループステージ2試合はウォーカーがおらず4バックであったことも、サカのプレーに影響した可能性はある。前述のようにイングランドの攻撃は左サイドに偏っていたが、「ショーが高い位置をとって人数をかけて攻める」という側面と、「右サイドの組み立てがうまくいかないので自ずと左サイド偏重になる」という側面が相まっていた。
戦術メカニズムはさておき、試合を決めてしまう個のクオリティ。
とはいえ、結局は左サイドの密集地帯をフォーデンらの高いテクニックで突破して先制すると、ベリンガムのボール奪取と推進力をきっかけとして鮮やかなカウンターで追加点。完璧な内容ではなかったが、要所で個々の選手が能力の高さを見せつけ、効率的に2-0のスコアに持ち込んだ。
戦術メカニズムがそこまでハマっていたわけではないが、それを差し置いて試合を決めてしまうだけの選手個人のクオリティを備えているのが現在のイングランド代表だ。能力の高い選手が揃っているうえに、特にボールを奪われた際の守備意識は前線を含めて非常に高く、被カウンターの場面はほとんど作らせなかったのも大きい。
デクラン・ライスは攻守で絶大な貢献度。怖いのはもはや疲労だけ。
イングランドで地味に効いているのは、アンカーのデクラン・ライスの存在だ。豊富な運動量でピッチの広範囲をカバーすることで、セネガルの攻撃の芽をことごとく摘んだ。特にベリンガムやヘンダーソンはライスがいることで前線まで躊躇なく攻撃参加できており、その意味では先制ゴールの陰の立役者とも言える。
最終ラインまで下がって組み立てを助けたかと思えば、するするとドリブルで持ち上がるなど、攻撃面での貢献度も高い。いまや世界屈指のアンカーと評しても過言ではなく、彼にとって怖いのはもはや蓄積疲労だけだ。
終盤にはグループステージからフル稼働だったベリンガムとストーンズも交代させて負傷のリスクを抑えた。主力のコンディション維持という観点では、グループステージ第3戦から決勝トーナメント1回戦まで理想的な選手起用ができている。
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