テクノロジーの進化が生んだ田中碧のゴール。主審は幾度となくパスコースを塞いだ。(カタールW杯)
カタールW杯グループステージ第3節。日本とスペインの一戦を裁いたビクター・ゴメス主審率いる審判団のジャッジについて振り返る。
日本 vs スペイン
Referee:
Victor Gomes (South Africa)
Assistant referees:
Zakhele Siwela (South Africa)
Souru Phatsoane (Lesotho)
Video Assistant:
Fernando Guerrero (Mexico)
ゴメス主審のポジショニング、副審のラインジャッジ。課題山積の審判団。
主審は、Victor Gomes。南アフリカ出身の39歳で、2021年のアフリカ選手権の決勝を担当するなど、アフリカ屈指の審判員だとは思うが、今節でのパフォーマンスは芳しいものではなかった。大きな誤審はなかったものの、主審のポジショニングから副審のラインジャッジまで課題が山積で、逆によかった点を探すほうが難しい。
当初判定はゴールキック。VARによりゴールが認められた。
まずは、最大のトピックスであった日本の2点目のシーンでのジャッジを振り返ってみよう。
最終的にはゴールが認められたが、当初の審判団のジャッジは「ボールはゴールラインを割っておりゴールキック」だったように思われる。副審はゴールを認める場合にはハーフウェイラインのほうに走っていくことになっているが、A2のファトソアネ副審はボールがゴールに入った後もゴールライン付近に立ち止まったまま。これはゴールを認めていないもしくは認めるうえでの懸念点があることを示している。
その後、ゴメス主審はVARと交信しているジェスチャーを見せ、VARチェックの時間となったが、この間にボールはゴールエリア内に置かれていたので、当初判定はやはりゴールキックだったようだ。また、最終的にゴールを認める際に、ゴメス主審はTVシグナルを行っているので、これはVARチェックにより判定が変更されたことを示している。つまり、「当初判定ではゴールを認めていなかったが、VARのOR(オンリー・レビュー)によりゴールを認めた」ということだ。
今大会はチップを用いた最新テクノロジーが導入されている。映像を目視しての検証は無意味。
判定の流れとしては上記のとおりだが、「本当にゴールラインを割っていなかったのか」という点においては、主にドイツメディア(※このゴールがなければドイツがグループステージを勝ち抜けていた)が様々な映像証拠を提示して疑問を呈しているが、ボールの位置は見る映像の角度によって大きく異なるので、真横の角度以外からの映像では正しい判断はできない。
今大会は、映像でのレビューだけでなく、ボールに内蔵されたチップを基にしたジャッジも採用されている。ゴールラインテクノロジーが作用するのはゴールの部分のみだが、チップを用いたトラッキングシステムは他のラインに関しても計測可能とのこと。よって今回の判定について、映像での見た目だけであれこれ議論するのは無意味である。
▼VARチェックに利用されているキネクソン社の技術について
(2022/12/03加筆)上記のチップを用いたトラッキングシステムはオフサイドのためのテクノロジーとのこと。したがって、今回のVARジャッジは真横からの映像を検証した結果として「ラインから完全に出ていない」ということが確認できたために判定が変更されたと考えられる。誤りを招く表記となっていたため、訂正いたします。
中央寄りのポジショニングで、幾度となくパスコースを塞いだゴメス主審。
さて、それでは上記の事象以外のジャッジを振り返っていこう。
ゴメス主審は試合を通してバイタルエリア手前の中央の位置を取り続けていた。これは展開が停滞しがちなアジアやアフリカの審判員によく見られる傾向で、肝心のゴール前での攻防を近くでしっかりと見極めるために、後方でのビルドアップの時点で敵陣に「先回り」しておくというアプローチだ。
この考え方自体を否定するわけではないが、ゴメス主審はボールに背を向ける場面も見られるなど、その傾向があまりにも露骨であった。スペインのパス回しに対して日本のフォワードが食いつく場面もあっただけに、もしそこでファウルが起こっていたらかなり遠めの位置からの見極めを余儀なくされたはず。結果的にはそのような事象はほとんど起こらなかったが、もし日本がボール奪取に成功していた場合には大きく出遅れた可能性も高かった。
また、中央寄りのポジションを取ることで、しばしばパスコースを塞いでしまう場面が見られた。スペインのようなショートパス主体のパス回しを得意とするチームの試合の場合、細かいポジション修正を余儀なくされる主審の振る舞いは確かに難しいが、バイタルエリアで「滞留」していればプレーに巻き込まれるのは必然。彼自身もそのリスクはわかっていたはずだが、ペドリやガビのパスコースを塞いだのは1度や2度ではなかった。
板倉と谷口への警告は一定の妥当性あり。吉田への警告は不当。
個々のジャッジについてはそこまで気になる点はなかった。前半20分にスペインにフリーキックを与えたシーンは「あれ?」と思ったが、リプレイ映像を見返すと谷口がガビをホールドしており、ファウルというジャッジで妥当だ。唯一気になったのは後半39分、裏に抜け出しかけた守田をロドリがブロックしたシーンで、アドバンテージ適用は妥当だったものの、直後にボールを奪われたのでロールバックしてファウルを採ってもよかっただろう。なお、状況としてはSPA(チャンス阻止)なので、アドバンテージ適用の際には懲戒罰はナシで、もしロールバックした場合にはイエローカードが提示されたはずだ。
警告に関しては、前半の終盤に続けざまに3枚のカードを提示。板倉は後方からペドリの足首あたりに接触しており、勢いもあったのでラフプレーでの警告は妥当だろう。谷口に関してもそこまで強度の高い接触ではなかったものの、前半33分に同様のファウルを犯していたので、イエローカードが出てもおかしくない。
問題なのは吉田麻也に対する警告で、モラタが派手に傷んだものの、接触自体は非常に軽微。確かに日本代表に後方からファウルが増えていたことは事実だが、この事象についてはモラタの「演技」に騙された感も否めない。それよりは、後半10分に田中碧に遅れてチャレンジして頭部が接触したブスケッツのほうが警告に値したのではないか。
本田圭佑・寺川俊平両氏のオフサイドジャッジに関する理解不足は残念。
そして、副審2名のラインジャッジの精度もかなり怪しかった。日本の2点目のゴールシーンでのボールのイン/アウトの見極めは非常に困難なので、あれを「ミスジャッジ」と断じるのは酷だが、A1のシウェラ副審が1回(前半33分)、A2のフォトソアネ副審も1回(前半9分)のオフサイドの見逃しがあった。そこまで難しいラインジャッジではなかったので、このレベルでのミスはいただけない。
なお、ABEMA解説の本田圭佑が「フラッグを上げるのが遅い」と評した前半24分のジャッジは特に問題はない。オフサイドディレイでフラッグを上げるのを遅らせた判断はこの場面に関しては適切であった。ちなみに、その場面でABEMA実況の寺川俊平アナウンサーが「VARがあるので副審はこのような場面では見逃す傾向がある」と発言していたが、オフサイドディレイはあくまでもフラッグを上げるのを遅らせているだけで、「見逃している」わけではない。両氏の発言は競技規則の理解が不足した残念なものであった。
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