オリヴァー審判評:大一番で堂々たるレフェリング。オフサイドの新解釈も的確。(カタールW杯)
カタールW杯準々決勝。クロアチア vs ブラジルの一戦を裁いたマイケル・オリヴァー主審率いる審判団のジャッジを講評する。
クロアチア vs ブラジル
Referee:
Michael Oliver (England)
Assistant referees:
Stuart Burt (England)
Gary Beswick (England)
Video Assistant:
Pol van Boekel (Netherlands)
A2はベネット氏ではなくベズウィック氏。いつもと違う審判セットに。
初のワールドカップでグループステージの2試合を順当に裁き、無事に決勝トーナメントでも割当を獲得した。イングランドとは反対側の山の大一番を担当することになったが、A2はいつものベネット副審ではなくテイラー審判団の一員であるベズウィック副審が入った。体調不良や負傷などのアクシデントだと思われる。
序盤は粛々と必要なファウルを採り、落ち着いて試合を進めていく。プレーが止まった際にはカゼミーロやネイマールと談笑するなど、余裕のある振る舞いで選手との関係性もうまく築けていた。
前半23分にカウンターに出ようとしたモドリッチをホールディングで止めたパケタのプレーはSPA(チャンス阻止)の警告すれすれ。ただし時間帯、クロアチアの前進よりもブラジルの戻りのほうが速かったことをふまえると、口頭での注意のみで留める判断は十分にサポートできる。
ダニーロのプレーは危険だったがレッドには値しない。バックパスに該当するのは「くるぶしより下でのキック」なので問題なし。
前半25分にはヘディングでボールを触ろうとしたユラノビッチに対して足を高く上げてチャレンジしたダニーロに警告を提示。ダニーロはボールを触れたうえで、ユラノビッチのお腹辺り(←顔ではない)に足(←足裏がヒットしているわけではない)が入る形となったので、危険ではあったがレッドカード間違いなしというレベルではない。感触としては「イエロー寄りのオレンジ」という程度で、イエローカードという判断で問題ないだろう。
なお、ダニーロのファウルはラフプレーという観点以外にDOGSO(決定機阻止)の可能性もあったが、個人的にはDOGSOではなくSPAだと考える。ボールが大きく弾んでおり「コントロール」という点でやや疑問符が付くほか、中央に侵入しようとしていたとはいえサイドの位置であり、ゴール前に迫るまでにはブラジル守備陣のカバーも間に合った可能性が高い。DOGSOの要件を満たすには至らないというのが私の見解だ。ちなみにSPAかつラフプレーの場合、警告はより重大な違反である「ラフプレー」のほうでの警告扱いとなる。
前半31分のブロゾビッチへの警告はほとんど議論の余地がない。明らかなホールディングで、明らかなSPA。競技規則の例として載せたいくらいの典型例であった。前半38分にはグヴァルディオルが太ももで扱ったボールをリバコビッチが手で扱ったことで場内とブラジル陣営が騒然としたが、いわゆる「バックパス」に当たるのはくるぶしより下でのキック(およびスローイン)のみなので、競技規則上ではノーファウルで問題ない。
腕にボールは当たったが、競り合う中での自然な位置であると判断するのが妥当。
後半2分のシーンでは、論点がいくつかある。まず、ユラノビッチがボールに触れたシーンがハンドかどうか。そして、ヴィニシウスはオフサイドだったのかどうかだ。
まず、ユラノビッチのプレーについては、腕に当たっているのは明らかなので、それが「不自然」だったかどうかがポイントになる。ユラノビッチはネイマールと多少競り合いながらのプレーになっており、バランスをとるために腕が多少広がるのは不自然ではない。個人的にはノーハンドという判定で妥当だと考える。
なお、オリヴァー主審がもし腕に当たったのを見逃していたとすれば、OFR(オン・フィールド・レビュー)となった可能性が高いが、OFRが行われなかったということは、「腕には当たったが競り合いの中で不自然な腕の位置・動きではない」というのが当初判断であり、それをVARがサポートしたということだろう。
オフサイドの新解釈では、ユラノビッチのプレーは「意図的」ではない。
次に、ヴィニシウスがオフサイドかどうかについては、ヴィニシウスがオフサイドポジションにいたことは間違いないので、前述のユラノビッチのプレーが「意図的」かどうかがポイントだ。ここは2022年8月に発表されたいわゆる「オフサイドの新解釈」が適用されることになる。
以下に「意図的にプレーした」と判断する指標を、JFAの通達より引用する。今回のユラノビッチのプレーは「かろうじてボールに触れたりコントロールできた」に該当すると考えられるので、「意図的なプレー」ではないと判断するのが妥当だろう。よってヴィニシウスにはオフサイドが適用されるというのが私の考えであり、審判団の判定は支持できる。
競技者がボールをコントロール下に置いていたことで、結果的に「意図的にプレーした」ことを示す指標として次の基準が適切に使われるべきである。
(中略)
• ボールが長く移動したので、競技者はボールをはっきりと見えた
• ボールが速く動いていなかった
• ボールが動いた方向が予想外ではなかった
• 競技者が体の動きを整える時間があった、つまり、反射的に体を伸ばしたりジャンプせざるを得なかったということでもなく、または、
かろうじてボールに触れたりコントロールできたということではなかった
• グランド上を動いているボールは、空中にあるボールに比べてプレーすることが容易である
「オフサイドの判定に関わる「意図的なプレー」と「ディフレクション」との違いに関するガイドラインの明確化」
より引用(赤字強調は筆者)
アントニーは「ダイブ」のツケで、ファウルを採ってもらいにくい状況に。
後半28分、ドリブルで仕掛けたアントニーが倒れるもノーファウル。対峙したペリシッチとの接触はほぼなかったので、「ダイブ」でイエローカードが提示されてもおかしくなかった。おそらくA1のバート副審と挟むようにしてよいポジションを取れていたので、ジャッジは比較的簡単だっただろう。
後半32分にはコーナーキックのこぼれ球からカウンターの芽を摘んだマルキーニョスに警告を提示。ブラジルの帰陣のほうが早かったので、無理にファウルで止めなくてもよかったようには思えた。
延長前半3分には、ソサの手がアントニーの顔あたりに入るもノーファウル。副審に猛然と詰め寄ったアントニーには注意が与えられた。微妙なところではあるが、この事象だけを見るとファウルに近いとは思ったが、前述の「ダイブ」を含めて「簡単に倒れる」という印象が付いてしまっており、それまでのツケを払ったとも言える。
ジャッジは大きな問題なし。イングランドが敗退となれば決勝での割当もありうる。
その直後のネイマールのファウルは、ブロゾビッチの足を後ろから蹴りつけるような形になっており、ラフプレーでの警告が出てもおかしくなかった。延長戦に入ってからはややファウルが増える中で、延長前半14分にはアントニーとペリシッチが口論に発展。すかさず介入して事なきを得たが、ファウル続発の際にはリスタートに少し時間をかけるなど、試合を落ち着かせる工夫があってもよかったか。
試合全体としては、ファウルの基準にブレはなく、不可解な判定もナシ。延長前半にやや荒れかけたが、落ち着き払った振る舞いが徐々に選手をトーンダウンさせ、大きな揉め事やラフプレーが起こらずに試合を終わらせたのは評価に値する。審判団としての消耗も激しいので準決勝の割当は難しいかもしれないが、イングランドの勝ち上がり状況によっては決勝の割当も狙えるかもしれない。
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